量子コンピュータの実用化は近い。ドイツ・日本は企業連合。米中が開発牽引。
量子コンピュータの実用化は、最短で2029年と近い。産業や国の安全保障へのインパクトも大きく、「量子コンピュータを制する者が次のデジタル覇権を握る」とも言われている。その開発競争は激化しており、米中に対抗し、ドイツや日本では企業連合で対抗する動きがみられる。
量子コンピュータとは?
量子コンピュータとは、圧倒に速い速度で計算する技術で動くコンピュータである。量子コンピュータは、従来型のコンピュータと比較して数万倍以上の速度だとも言われていおり、従来不可能と言われていた処理も可能にする。
従来型のコンピュータは「0と1の組み合わせ(=2ビット)」で論理演算をする形式に対し、量子コンピュータは「0と1の両方の状態を同時に表現するQubit(=qubit方式)」という形式で計算することが、この速度の違いを生み出す。
例えば10ビットの計算を行う場合、従来型のコンピュータは「2の10乗分」の計算を網羅的に実施するため、1024回の計算回数が必要になる。一方、量子コンピュータでは、各ビットに「0と1の組み合わせを同時に持たせる」ことが可能なので10ビット分(=1024通りすべての状態)を同時に扱える。そのため、量子コンピュータはたったの1度の処理で計算が済む。
この圧倒的な速度により、交通渋滞をなくすためのルート発見、化学素材や新薬の開発(=新発見に必要な膨大なコンピュータ計算処理)、デジタルセキュリティの破壊(=ブロックチェーンの改竄等)、不可能を可能にする技術として実用化が期待されている。産業や国の安全保障に与える影響は大きい。また量子コンピュータがAI技術と組み合わさることで、大革新が起きることも容易に想像して頂けると思う。ゆえに、国をあげた開発が進められてる分野なのである。しかし開発に必要な投資額は数十億ドル(数千億円)であり、企業単体での開発はなかなか厳しいものがある。
また実現には、「エラー耐性(=獲得計算処理に影響をおよぼすノイズの影響を計算結果から排除)」や「スケーラビリティ(=量子ビットの数を増やしても、計算の難易度が高まらない)」等、まだ課題が残る。
実用化時期は?米中が牽引する競争。
量子コンピューターの実用化時期は、最短で2029年である。これはグーグルが掲げた目標年である。グーグルは2019年に、最先端のスーパーコンピューターが1万年かかる問題を量子コンピューターで3分20秒で解き「量子超越」と呼ぶブレークスルーを果たしている。ここからも想像できるようにアメリカが量子コンピュータで最先端を走っている。米IBMも2016年に量子コンピュータをクラウドで利用可能にし、140社超の企業・大学と連携して知見を蓄積している。
また米国を追い、中国が開発競争で猛追している。中国科学技術大学は2020年には光を使う方式でグーグルに次ぐ量子超越を達成した。さらに2021年5月、(まだ試作レベルであるが)量子ビット数は62にのぼる世界トップ級超電導の量子コンピューター「祖沖之号」を開発したと発表した。
またアリババ集団は、2015年に中国科学院と「量子計算実験室」を設立。2018年にはクラウドで量子コンピュータを利用可能なサービスを始め、展開を広げている。
尚、上記で説明したようなグーグルが開発する量子コンピュータは、「量子ゲート方式」であり、あらゆる分野で利用可能な汎用機である。一方、特定の分野に限定した「アニーリング方式」の量子コンピュータでは、富士通が進んでいる。
(参考)量子コンピュータの「方式」の種類企業連合で実用化を推進するドイツと日本。
日本とドイツでは、自国を中心とした企業と共同で量子コンピュータの実用化を推進する動きが見られる。
日本は2020年7月に、東大を中心に、日本IBM、東芝、トヨタ自動車、日立製作所、みずほFG、三菱ケミカル、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが参加する「量子イノベーションイニシアチブ協議会」を設立していた。
それから約1年後の2021年6月、トヨタ自動車など大手企業12社は次世代の高速計算機、量子コンピューターの実機の共同利用に乗り出すと発表があった。米IBMが近く日本で初めて稼働させる「商用機」を用い、産業用途での実用化へ協力して知見を蓄積するとのことだ。米IBMが川崎市の産業育成拠点「かわさき新産業創造センター」に持ち込む新鋭機を利用する。米国外への設置はドイツに次ぐ2例目となる見通し。
一方、ドイツでも同様の動きがある。VWやシーメンス等、ドイツの大手企業10社は2021年6月、量子コンピューターの産業利用実現に向けて「量子技術・アプリケーション・コンソーシアム(QUTAC)」という名のコンソーシアムを設立すると発表した。設立メンバーにはVW、BMW(自動車)、ボッシュ(IoT)、シーメンス(電機)、インフィニオン(半導体)、BASF(化学)、メルク(製薬・化学)、ベーリンガーインゲルハイム(製薬)、SAP(ソフト)、ミュンヘン再保険(金融)が名を連ねている。
(出所)日本での量子コンピュータ連合 (出所)ドイツでの量子コンピュータ連合日本とドイツの企業連合は両方とも、量子コンピュータの「開発」でなく「実用化」を掲げていることに注目したい。また米IBMが国外に量子コンピュータを置く立地も、この両国だけである。 量子コンピューターは、2050年には最大8500億ドル(約93兆円)の利益を創出する可能性があるとボストンコンサルティングは試算している魅力あるビジネスだ。 実用化は近く、そのインパクトは大きい。米中に遅れを取らないよう、日本もドイツも自国・自社に閉じず、「エコシステム」を積極的に活用している。
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