ロシアのウクライナ侵攻を経済的観点から考察。 | ドイツビジネスコンサルティング

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ロシアのウクライナ侵攻を経済的観点から考察。

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2022年2月にロシアがウクライナを侵攻したことにより第二次世界大戦/冷戦後の戦後秩序が崩れた。
人道的観点や歴史的観点、軍事的観点からも語りたいことも多い。
しかし、これらに関する考察は他に譲り、本記事では経済的観点からロシアのウクライナ侵攻を考察することとする。

 

ロシアと欧州の絆は「天然ガス」

ロシアのウクライナ侵攻を経済的観点から考察した場合、そのキーワードは「天然ガス」となる。
欧州は天然ガス需要の4割もの量をロシアから輸入しており、その関係が崩れることを意味するからだ。

100%再生可能エネルギー発電(風力、太陽光等)を実現させたい欧州にとって、天然ガスはその移行期間に利用したい重要な「低CO2排出燃料」である。
一方、産業力の弱いロシア経済にとっても、欧州への天然ガス輸出は外貨を稼ぐ貴重なビジネスであった。
またロシアから天然ガスを購入することにより、欧州はロシアと良い関係を築くことも狙いにあった。
つまり、天然ガスはロシアと欧州を繋ぐ絆(利害関係の一致)だったのだ。
実際、ドイツでは天然ガスパイプライン「ノードストリーム2」建設により、ロシアからの輸入量を増加させる計画であった。
(※これに関しては、以前からアメリカやポーランドなどから批判は出ており、物議を醸していた。)
しかしモラルに厳しい欧州がウクライナ侵攻を見過ごすはずはなく、この関係に終止符が打たれる。
ドイツ政府はエネルギー政策転換とノードストリーム2のプロジェクト停止もすぐに発表した。

これらの状況に関しては、ウォールストリートジャーナルやロイター通信でも説明されている。
(ウォールストリートジャーナル記事):「ロシアを友人に」。30年越しのこの期待は、ロシアのウクライナ侵攻で最初に犠牲になったものの一つだ。

(ロイター記事):ドイツのショルツ首相は27日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア産ガスへの依存度を引き下げるためにエネルギー政策を大きく転換する方針を示した。

欧州の中期シナリオ予測。原発とアメリカ。

欧州の中期的なエネルギーシナリオを予測すると、キーワードは「原子力発電」と「アメリカ産LNG輸入」となると考える。
(※現状、欧州は長期目標「カーボンニュートラル(脱炭素発電)」を遅延する修正等はない。)
ロシアのウクライナ侵攻以前から、欧州では原子力発電への機運が高まっていた。
特にドイツのお隣の国であるフランスやポーランド、チェコでは原子力発電新設を進めていた。
EUでの議論でも、原子力発電をCO2を排出しない「脱炭素エネルギー」として進めるべきという意見も出ていた。
これに関しては脱原発を目指すドイツは反対していたが、実際はドイツ国民の半数近くが原発賛成派になっているという世論結果も出ている状況であった。
さらにロシアのウクライナ侵攻を受け、ドイツは国内の原子力発電の停止時期を先延ばしにする検討を開始した。
(ドイツ現地の報道によるとE.ONやEnBWなどの独発電会社へ打診し、その大半は前向きな姿勢を見せている。)

ドイツが新たに原発建設するとなると多大な時間を要する。
そのためドイツでは原発新設の可能性は低い(もしくは時間を要する)が、
もともとプロジェクトを進めていたフランスやポーランドなどでは原発が建設されると予測する。

一方、欧州外に目を移すとアメリカはシェールガス革命により天然ガスが余っている状況である。
欧州への天然ガス販売量を増やしたいアメリカは、ここ数年、欧州と交渉を重ねていた。
このような背景から、今後、ロシアからアメリカへ輸入先を切り替えることが予想される。
実際、アメリカのLNG輸出最大手であるCheniere Energy(シェニエール)の株価はウクライナ侵攻を受けて急上昇している。
また欧州への輸送方法はパイプラインでなくLNGになる。(輸送距離が遠いためLNGの方が経済的である。)
LNG輸入のためには受入施設が必要である。しかし、ここ数年のアメリカとのコミュニケーションの中で、欧州はLNG受入施設を増やしていた。これは僥倖と言える。
尚、ドイツは今回、北部の港(ブルンスビュッテル、ビルヘルムスハーフェン)にLNG受入施設を建設すると発表したが、完成までには4年程度の時間を要すると言われている。

中国との利害一致が侵攻決意の要因か?

予測シナリオの一つであり、かつ、極端なシナリオであると前置きした上で考察したい。
「天然ガス」を安定的に輸入したい中国と、欧州の顔色を伺わずに輸出したいロシアの利害が一致した結果、ロシアがウクライナ侵攻を決めた可能性もありうる。
両国の共通点は、欧米諸国から非難対象だということだ。
ロシアは2014年にクリミア半島を併合し、国際的な批判を受けている。
中国もウイグル問題、香港・台湾問題で同様に批判を受け、特にアメリカと対立を深めている。
しかし中国はアメリカから天然ガス(LNG)を輸入している。
アジアへの支配力を強化したい中国にとって、これはリスクである。
その両国が協調し、欧米を批判するといった場面を多く目にするようになった。

日経新聞によると、中国はロシアがウクライナを侵攻する動きを読めていなかったらしい。
(日経新聞):中国は本気で、ロシアは全面侵攻しない、と油断していたようだ。

しかし欧米・アジア等で多くの国がロシアを批判する中、中国はその立場を明らかにせずにいる。
(ロイター記事):ウクライナ危機、「ロシア寄り」の中国にリスク
ロシアと中国の距離は近づいているように感じ取れるが、どこまでの関係性であるかまは定かではない。
しかし、もし欧州の不買により余るロシア産天然ガスを中国が購入する密約が交わされているならば、
それはロシアにウクライナ侵攻を決意させるには十分な理由となっているのかもしれない。
※尚、同時期(2022年2月)にロシアは中国への天然ガス輸出量を増やす計画も発表している。

ロシアのウクライナ侵攻を静観している中国であるが、停戦介入や欧米諸国と同じに立場をとるならば、世界経済への影響は致命的なものとはならない。
しかし極端な予測ではあるが、中露vs欧米諸国のシナリオで動く場合のインパクトは多方面で大きいため、「頭の体操」として少しは考える価値があるのではないだろうか。

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