風力発電業界へ参入は、風車製造でなくサポート製品販売が良い理由。 | ドイツビジネスコンサルティング

ホーム > Knowledge > 風力発電業界へ参入は、風車製造でなくサポート製品販売が良い理由。

風力発電業界へ参入は、風車製造でなくサポート製品販売が良い理由。

wind-power

多忙のため、久々の更新となりました。
最近、風力発電大手のシーメンスガメサが原因で、親会社のシーメンスエナジーの株価が40%近く暴落したとの話題もあったため、今回は「風力発電業界」に関する考察記事を書くことにします。
ーー
風力発電業界への参入を検討しているならば、風力タービン製造で日本が参入することは極めて難しいと考える。
もし参入する場合、狙うべきは風力発電所をデジタルで管理するためのソフトウェアや、風力発電の耐用年数を増加させるためのメンテナンス製品など、風力タービンメーカーをサポートする製品を販売する側が良いと考える。特に課題解決の特性から、日本の「機械」「化学」業界に属する企業の活躍を期待したい。本記事ではそのことについての考察を書きます。

世界の風力発電メーカーのシェア分布

風力発電市場は成長市場だ。知っている方も多いと思うが風力発電業界は欧州(ヴェスタス、シーメンスガメサ、エネルコン)、アメリカ(GE)、中国(Goldwind、Envision、Mingyang、Windey、Sewind)の3極が、世界の市場シェアを占有している。
(※ いうまでもないが、そもそも世界の風力発電容量の大半は欧米中にある。)
もう少し詳しく見ると、欧米市場では欧米メーカーで占められているが、中国市場は中国企業が占有している状態にある。(昔は中国でも欧米企業が強かったのだが、欧米企業から技術を吸収した中国は自国企業を選ぶようになった。)
数字で見るとわかりやすいので、陸上風力発電の市場シェアを見てみる。
上記の欧米企業4社(ヴェスタス、シーメンスガメサ、エネルコン、GE)が占める欧州市場シェアは81%(2020年)、アメリカ市場シェアは93%(2020)を占めており、この市場へ日本企業が入り込むのは容易ではない。
一方、中国市場では上記の中国企業(Goldwind、Envision、Mingyang、Windey、Sewind)が7割のシェアを占めている。欧米企業すら入り込めていない中、日本企業が入り込むのはさらに難しい。

風車メーカーとして利益を出す難しさ

風力発電業界へ参入する場合、風車メーカーとして参入することをお勧めしない理由は他にもある。利益を出すのは簡単ではないのだ。ヴェスダスは比較的うまくやっているが、シーメンスエナジーもGEも苦労している。冒頭で述べたように、風力発電大手のシーメンスガメサが原因で、親会社のシーメンスエナジーの株価が40%近く暴落した。シーメンスガメサは世界トップの洋上風力発電メーカーである。尚、洋上風力タービンより、圧倒的に多くの陸上風力タービンも販売している。シーメンスエナジーはコロナ禍の材料(鉄鋼)価格高騰により数年間、赤字を出していた。今回の騒動ではローターブレードやベアリングに起因する陸上風力タービンの故障率高さを修正するために10億ユーロ以上、損失が出る可能性が高いということらしい。さらに洋上風力でも問題がある可能性があるとも同社の親会社であるシーメンスエナジーは発表している。(シーメンスガメサの完全支配権を得て、「総合エネルギー企業」としての同社の成長に期待していただけに個人的に誠に残念である。)
それだけではなく中国企業が脅威にもなると予想するため、風車メーカーとして参入するのはリスクが高いのだ。
中国系の風車メーカーは世界に先駆けて、グリッドパリティを達成している。グリッドパリティとは既存の系統からの電力(火力発電・水力発電など他の電源から発電される電力)と比較し、発電コストが同等以下になる状態のことを指す。つまり風車メーカーとして参入する場合は、欧米メーカーですら利益を出すのに苦労していることに加え、圧倒的に安いコストで風力発電を販売する中国企業とも競争することになる。

風車メーカーのイノベーションのニーズは高い。

前述のとおり風車メーカーとして参入することは難しい。
しかし風力発電業界には、サポートを必要とする課題が幾つかあり、そのニーズが高い。
たとえば製造コスト削減するための3Dプリント技術や、風力タービンの廃棄ゼロにためのリサイクル技術である。
これは欧米中、すべてのメーカーが取り組んでいる課題である。
以下で述べるように、課題解決の特性から、日本の「機械」「化学」業界に属する企業の活躍を期待したい。
またデジタル分野でもチャンスが残されていると考える。

輸送の課題/機械業界へのニーズ

たとえばアメリカでは米国エネルギー省が資金を提供し、3Dプリントで風力タービンを製造する技術開発にGEは取り組んでいる。風力タービンのタワー部(棒の部分)を3Dプリントで製造することにはある程度成功しているようであり、ブレード(羽の部分)製造にも取り組んでいる。
これにより何が良いかいうと、風力タービンの輸送問題が解決可能になることにある。
実は土地が広大なアメリカでさえ、風力タービンは大きすぎてその輸送(道路・鉄道)に困っているのだ。
また風力タービンのサイズを大きくするすればするだけ発電可能な電力容量も大きくなるため、風力タービンのサイズは年々大きくなっている。そのためこのような輸送問題を解決するニーズは、ますます高くなるのだ。
これは特に、日本の機械業界が活躍して欲しい分野である。

リサイクルの課題/化学業界へのニーズ

風力タービンの廃棄ゼロに関しては、ブレード部分のリサイクルが問題となっている。ブレード部は主にエポキシ樹脂とガラス繊維で構成される複合部材のため分離が難しく、結局リサイクルされずに埋め立てられることが一般的である。世界では、耐用年数(15-20年)が過ぎた風力タービンが大量に出始めてきたことから、この解決が急務となっているのだ。実際、風車メーカ全体の共通課題であるため、Vestas、Siemens Gamesa、LM Wind Power(GE子会社)を含む10社が参加するDecomBladesプロジェクトを2021年に立ち上げるなどしして、業界として課題に取り組んでいる。この分野でのイノベーションはブレード部のエポキシ複合材料の分離方法が課題であることから、化学業界の活躍が必要とされていると考える。日本は化学業界が強いことから、この分野で何かしら成果を出せれば大きなビジネスチャンスとなる。
(おまけ話ではあるが)化学業界へ求めれるニーズは他にもある。風力タービンのライフタイム延長するためのコーティング材の開発である。EUが資金を出して研究した分野でもあり、開発に成功した企業もスペインにある。

デジタル化の課題/IT業界へのニーズ

ITに関しては欧米中と比較して日本は強くないこと、風車メーカー自身が開発に取組むソフトウェアの分野もあることから、そこまでおすすめはしない。
しかし上記で述べた課題解決ではなく、風力発電のサプライヤーとして参入するならデジタル分野しかないと考える。
(※ 風力タービンはその輸送コストの高さから、基本的には現地で製造調達することが多い。このような観点からの部品調達ニーズは除く。)
風車メーカーもSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)では自社開発のソフトウェアを使うことが一般的である。またデジタルツインに関しても他社と協業して自社製のソフトウェアを開発している。
しかしCMS(Condition Monitoring System)や電力予測、天気予測などのソフトウェアは他社製のソフトウェアを導入することが多い。またこのようなソフトウェアを提供する会社は、数社〜十社程度と多くなく、圧倒的に強い企業はない。もし本気で検討するならば、この分野は十分に戦える可能性が高いチャンスがある分野ではないかと思う。

—————————————————————————————–
風力発電業界の現状を的確に把握し、これからのビジネス展開に生かすためには、確かな情報と深い洞察が不可欠です。当社の調査・分析サービスは、広範で詳細なマーケット調査、競合分析、そして最新のトレンドの調査を提供します。

ドイツ現地からの直接情報収集が可能な当社は、風力発電に関する技術情報を迅速に捉える強みがあります。最新のトレンドや市場動向を正確に理解し、あなたのビジネス成功への道筋を描くお手伝いをさせていただきます。
お問合わせフォーム

—————————————————————————————–