【解説】今更聞けない洋上風力。
洋上風力は世界的にも成長市場であり、雇用を多く生み出す産業です。そのため日本政府も洋上風力産業に力を入れており、多くの日本企業にとってビジネスチャンスとなりえます。「今から洋上風力市場の状況を素早く抑えたい」という読者へ向けて、本記事でそのポイントをまとめています。
洋上風力市場の成長度
洋上風力は成長市場である。IEA Offshore Wind Outlook 2019によると、世界の洋上風力発電は2040年までに24倍の規模にまで成長する(2018年23GW→2040年562GW)。また2040年時点での洋上風力発電上位国でのシェアは、EU40%、中国34%、アメリカ12%、韓国8%、インド5%、日本1%である。
このように現在・将来ともに、欧州が最も大きい市場であることがわかる。
しかし洋上風力タービン世界最大手のシーメンスガメサは「アメリカや中国は、EUよりも実用的なアプローチの計画を進めている」とフィナンシャルタイムズのインタビューで語っており、米中市場はIEA予測よりも上振れする可能性もある。
洋上風力の製品傾向
欧州において、大型化による稼働率向上・コスト低減が進んでいる。
風車は2030年までに定格出力が15MW超~20MWクラスまで大型化し、ロータの直径は最大250mになると予測されている。日本・アジアの自然条件(台風、地震、落雷、低風速等)に鑑みると、台風や地震への対応としてクラスT風車が必要となる。これを見据え、シーメンスエナジーやGEは最近、クラスT風車の国際認証を取得している。さらにクラスT風車は台湾に導入され実績ができつつある。
洋上発電で先行する欧州では、発電コスト(落札額)が 10円/kWhを切る事例などが頻発しておおり、コスト提言が進んでいる。
洋上風力産業へ注力する日本政府
IEAの2019年の予測によると、2040年時点での世界の洋上風力発電量に占める日本の割合はわずか1%程度でしかない。しかし、洋上風力は世界的には成長市場である上、雇用を生み出す産業である。実際、洋上風力が盛んな欧州では、現状1~2万人の洋上風力関連雇用があり、今後も増加見込みである。特に、ドイツにはR&D・設計・製造拠点が立地し、関連雇用が多く生まれている。欧州の場合、イギリスにブレード、タワー、ケーブル、基礎の製造工場が存在する。またドイツでもナセル内部品含めて総合的なサプライチェーンが形成されている。
日本政府は、日本の洋上風力産業を盛り上げることで経済成長と雇用創出を同時に実現したいと考えている。
具体的には2040年時点で、洋上風力の日本のマーケットシェアを世界3位(EU、中国に次ぐ発電量)にまで高めたいと、日本政府は目標を打ち出している。
さらに2040年までに、洋上風力サプライチェーンにおける国内部品調達率を60%まで高めたいと、日本政府は目標を打ち出している。
サプライチェーン形成への投資促進のため、日本政府は補助金・税制等による設備投資支援を調整している。魅力的な国内市場の創出に政府としてコミットし、国内外からの投資の呼び水とすることが重要と政府は考えている。
(参考)日本政府、2050年のグリーン成長戦略を正式発表。
洋上風力のサプライチェーン
洋上風力の発電設備は、構成機器・部品点数は数万点と多い。
しかし、洋上風力サプライチェーンを7つのプロセスに大別し、そのコスト構造を可視化すると以下の通りとなる(以下は欧州での着床式の洋上風力の場合)。
①調査開発 2.9%
②風車製造 23.8%
③基礎製造 6.7%
④電気系統 7.7%
⑤設置 15.5%
⑥O&M 36.2%
⑦撤去 7.2%
日本政府の洋上風力サプライチェーン上の課題認識
日本政府は、洋上風力サプライチェーンにおける日本の課題(「技術開発ロードマップ」)を、以下のようにまとめている。
①調査開発 (風況観測・配置最適化等)
日本の気象・海象に対応した風況観測手 法や、風車配置最適化手法の確立等で発電量予測を高度化する。
②風車製造 (風車設計・ブレード・ナセル部品・タワー等)
グローバルメーカーと協働しつつ、日本・アジア市場向けの洋上風車要素技術(次世 代発電機、台風・落雷対応、低風速域 向けブレード等)を開発し、設備利用率の向上及び大量生産技術の確立によりコストを低減する。
③基礎製造
着床式基礎製造(モノパイル・ジャケット等)
足下で導入が進む着床式のコスト低減は急務。欧州で 確立した基礎構造を、日本・アジアの地質・気候・施工環境等に最適化し、高信頼性と低コスト化を実現する
④電気システム (海底ケーブル・洋上変電所等)
日本の技術の強みを活かした高電圧送電ケーブルや、浮体式で必要となるダイナミックケーブル・施工方法等の開発によりコストを低減する。
⑤設置
浮体式設置(浮体・係留索・アンカー等・輸送・施工等)
浮体は国内外で開発が進んでいるが、商用化を加速するためには風車・浮体・係留システム等の大量生産技術によるコスト低減や、一体設計が重要。そこで、基礎・係留索・ダイナミックケーブル等の要素技術 開発を進め、2025年前後に実海域での実証を行う。
⑥運転保守(O&M)
コストの35%程度を占めるメンテナンスをデジタル技術等により高度化しコストを低減する。
洋上風力の重要プレーヤー
洋上風力サプライチェーン上の基幹部は「風車製造 (風車設計・ブレード・ナセル部品・タワー等)(②の部分)」である。
そして2019年の風車市場(洋上風力発電タービン市場)の52%のシェアは、ドイツのシーメンスエナジー(子会社シーメンスガメサ)が抑えている。次いでデンマークのVestasが市場シェア17%と続く。基本的に欧州メーカーが圧倒的に強い。尚、アメリカのGEはわずか2%のシェアしかないが、製造業回帰を打ち出し、日本市場では東芝と組む等の動きがあるため、動向は抑えた方が良い。
上段(日本政府の洋上風力サプライチェーン上の課題認識)で説明したように、「風車製造分野ではグローバルメーカーと協働が重要」と日本政府は見解を述べている。風車製造分野で、競争・協業する上でも、この3社を中心に風車製造メーカーの分析が欠かせない。そのため、ドイツに拠点があるという強みを生かし、弊社は欧州の風車メーカーに対してヒアリング調査・分析を独自に実施しております。その他、再生可能エネルギー全体での洋上風力のポジション、イギリス政府やEUの洋上風力産業の成長戦略など、洋上風力に関するご相談は是非、ドイツビジネスコンサルティングまでお問い合わせください。
またドイツビジネスコンサルティングは、貴社に最適な欧州メーカー・スタートアップを発掘し、マッチングする実行支援サービスも提供しております。