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欧州グリーンディールの7つの政策分野

EU

EUは欧州グリーンディール政策により、環境ビジネスで覇権を狙う方針である。

欧州グリーン・ディール下での政策分野は、以下7つに分類される。
① クリーンエネルギー
② 持続可能な産業
③ エネルギー・資源効率的な建築及び改修
④ 持続可能でスマートなモビリティー
⑤ 生物多様性およびエコシステムの保全
⑥ 農場から食卓まで
⑦ 汚染ゼロ
各政策について、以下でそれぞれ説明する。

(参考)EUの新方針は「環境ビジネスで、覇権を狙う。」

①クリーンエネルギー

EUのエネルギー分野は、EUの温室効果ガス排出量の約25%を占める。そこで欧州委員会は、2050年気候中立目標を実現するための2030年に向けたEUの気候目標の引き上げを提案し、クリーン化に向けて以下のエネルギー分野の基本方針を打ち出した。

【基本方針】

  • エネルギー効率の重視と再生可能資源を利用した電力部門の発展
  • 安全でリーズナブルな価格でのエネルギー供給
  • EUエネルギー市場の完全統合に向けた相互接続とデジタル化
  • エネルギーシステムの相互接続と再生可能エネルギー源の電力網への接続・統合の推進
  • 革新的な技術と現代に適したインフラの促進
  • エネルギー効率の向上と製品のエコデザインの振興
  • ガス部門の脱炭素化と部門を超えた「スマートインテグレーション」の促進
  • 消費者のエンパワーメントと加盟国のエネルギー貧困5対策の支援
  • EUのエネルギー基準と技術の地球レベルでの推進
  • 欧州の洋上風力エネルギーの可能性の最大限の活用

②持続可能な産業

EUの産業分野は、EUの温室効果ガス排出量の約20%を占める。その一方で、1970年から2017年の間に、世界の年間原料採取量は3倍に増え、今も増加を続ける。このような資源採取や加工が原因で、生物多様性の喪失や水ストレス(水需要がひっ迫している状態)問題が引き起こされている。そこで、欧州委員会は、EUの気候目標を達成するには、循環型経済に基づいた新しい産業政策が必要であるとし、政策文書「欧州新産業戦略」(2020年3月10日採択)および「新循環型経済行動計画」(2020年3月11日採択)が発表され、以下の取り組みを示した。欧州新産業戦略では、以下が3本柱として挙げられた。
i) 欧州産業の競争力の維持、
ii)「欧州グリーン・ディール」が掲げる2050年までの気候中立の実現、
iii)「欧州デジタル化」への対応、
気候変動およびデジタル化に関しては、「グリーンへの移行(Green Transition)」「デジタルへの移行(Digital Transition)」というキーワードを用いて、両課題への企業のスムーズな適応を促すための諸政策を挙げた。例えば、従来型エネルギー産業から新産業への移行や転換を促す仕組みが不可欠と指摘し、「公正な移行メカニズム」がその役割を担うとする。同メカニズムは2020年1月14日に発表された「欧州グリーン・ディール投資計画」の一部をなすもので、欧州新産業戦略では、化石燃料に依存する地域や産業に、移行に必要な技術的および助言的支援を提供するための「公正な移行プラットフォーム」の立ち上げなどの政策が含まれた。同戦略はまた、循環型経済の構築推進を通じて2030年までに域内の中小企業を中心に70万人の雇用を創出するとする。
「欧州新産業戦略」の一部をなす「新たな循環型経済行動計画」により、環境に優しい未来にふさわしい経済の実現、競争力と環境保護の両立、消費者の権利強化を目指す。2015年12月に発表された「循環型経済行動計画」の成果を踏まえ、今回の計画はその設計と生産に焦点を当てた。具体的施策として、以下が含まれる。

  • 持続可能な製品をEUの規範とする:
    持続可能な製品政策に関する法案を作成し、EU域内に上市される製品を長寿命化、より容易に再利用・修理・リサイクルできるようにし、可能な限りリサイクル材を使用するようにする。使い捨てを制限し、早期の陳腐化への対策を進め、売れ残った耐久消費財の廃棄を禁止する。
  • 消費者の権利強化:
    消費者が製品の修理可能性や耐久性などに関する情報にアクセスできるようにし、環境の持続可能性に配慮した選択をできるようにする。真の「修理する権利」を享受できるようにする。
  • 循環型モデルへの移行の可能性が高い資源集約型産業に対する施策:
    電子・情報通信機器:製品の長寿命化と廃棄物の回収・処理強化に向けた「循環型電子機器イニシアチブ」
  • バッテリーおよび車両:バッテリーの持続可能性改善と循環型モデルへの移行可能性を改善するための新たな規制枠組み
  • 包装:包装・過剰包装の削減を含む、EU市場における新たな必須要件
  • プラスチック:再生材料の含有量に関する必須要件、特に、マイクロプラスチックと生物由来・生分解性プラスチックに留意
  • 繊維:繊維産業の競争力とイノベーションを強化し、EU市場における繊維の再利用を促進するための新たなEU繊維戦略
  • 建設・建物:建物分野において循環型モデルの原理を促進する、建築環境の持続可能性に関する包括的な戦略
  • 食品:食品サービス分野における使い捨て包装・食器の再利用可能な製品への置き換えに向けた、再利用に関する法的イニシアチブ
  • ごみ削減:
    欧州委はごみの発生抑制と、二次原材料への加工に焦点を当て、EU共通のごみ分別とラベリング制度の策定を検討する。循環型経済行動計画には、域外へのごみ輸出の最小化と違法輸送対策も盛り込まれた。その他、環境に有害な製品がEUの市場に出回ることを防ぐため、最低要件を設定するほか、グリーンウォッシング7の問題に取り組む。

③ エネルギー・資源効率的な建築及び改修

建物の建築、使用および改修には、大量のエネルギーおよび砂や砂利、セメントなどの資源が必要となり、そのエネルギー消費は、最終エネルギー消費の40%を占める。また、気候目標を達成するためには、公共・民間の建物の改修率を、少なくとも現在の2倍に高める必要がある。そこで欧州委員会は、建物のエネルギー効率向上に向け、以下に取り組む。

  • 循環型経済に適した建物の設計
  • エネルギー源ごとの価格差により、エネルギー効率の高い建物を奨励
  • デジタル化の推進
  • 建物の気候耐性の向上
  • 建物のエネルギー性能に関する規制の厳格な実施

また、2020年に新改修イニシアティブを制定し、建物・建築部門、建築家、技術者、地方自治体の関係者が一堂に会するオープンプラットフォームを立ち上げ、以下に取り組む。

  • 革新的な資金調達の手法の開発
  • 建物のエネルギー効率化への投資の促進
  • スケールメリットを生かした改修工事の大区画化

④持続可能でスマートなモビリティーへの移行加速化

EUの輸送分野は、EUの温室効果ガス排出量の約25%を占める。
欧州グリーン・ディールでは、2050年までに輸送からの排出量を90%削減することを目指し、以下の通り取り組む。

  • デジタル化 :モビリティーの自動化やスマート交通管理システムによる、輸送の効率改善とクリーン化。スマートアプリと「サービスとしてのモビリティー(Mobility as a Service = MaaS)」ソリューション技術の開発
  • さまざまな輸送手段の活用:鉄道または船による貨物輸送の活用増加や、欧州単一空域(Single European Sky)における、消費者や企業に費用負担をかけない形での、航空輸送による排出量の大幅な削減の必要がある
  • 価格への環境負荷の反映:排出権取引制度(ETS)の海運部門への拡大、航空会社へのETSの下での無償排出権割り当ての廃止、化石燃料への補助金打ち切り、道路利用料金の効果的な設定、など
  • 持続可能な輸送用代替燃料の供給の増加:2025年までに、EUでは、1,300万台のゼロ排出車/低排出車が普及するとされ、それに向け約100万基の公共充電・充填設備を新設する必要がある
  • 汚染の削減:排出量や都市の過密化の問題に取り組み、公共交通を改善

⑤生物多様性およびエコシステムの保全

欧州委員会は、生物多様性、森林および海洋の保護に向け、以下に取り組む。

【生物多様性】

  • 2020年3月までに生物多様性戦略を発表
  • EUは、2020年10月の国連生物多様性会議で、生物多様性保全のための地球規模の目標を提案
  • 欧州都市の緑化を提案し、都市空間における生物多様性の向上
  • 「農場から食卓まで戦略」により、農業に用いる殺虫剤と肥料の使用

【森林】

  • 新しい木を植え、損傷または枯渇した森林の再生のため、新EU森林戦略を策定
  • 気候中立と健全な環境の実現に向け、欧州の森林の質と量の向上を支援
  • 世界中の森林危機を最小限に抑えるため、域外で森林破壊を生じさせない輸入を奨励

【海洋】

  • ブルーエコノミー(海洋経済)は、気候変動対策で中心的な役割を果たすべき
  • 藻やその他の新タンパク源の利用を促進するなど、海洋資源を最大限に活用する必要がある

⑥農場から食卓まで(From ‘Farm to Fork’)

EUの農業部門は、安全で栄養豊富、高品質な食品を生産しつつも、自然への影響を最小限にとどめて生産することが求められる。そこで欧州委員会は以下を目的とした「農場から食卓まで戦略」を発表する。同戦略のロードマップ案は2020年3月16日まで欧州委員会のウェブサイトにて意見公募がされていた。今後寄せられた意見を踏まえた戦略が早期に発表される見込み。

  • 手頃な価格で持続可能な食品の供給
  • 気候変動への取り組み
  • 環境の保護
  • 生物多様性の保全
  • 有機農業の拡大

また、同分野の利害関係者と協力し、以下に取り組む。

  • 欧州の農業・漁業部門で働く全ての人々にとって移行が公正かつ公平であることを担保
  • 化学合成農薬や肥料、抗生剤への依存、リスクおよび使用を大幅に減らす
  • 害虫や疾病から収穫・漁獲物を守る革新的な農業・漁業技術の開発

⑦汚染ゼロ

EU市民と生態系を守るため、欧州委員会は大気、水および土壌の汚染を防止する汚染ゼロ行動計画を採択し、以下に取り組む。

【クリーンな水】

  • 湖沼、河川、湿地帯における生物多様性の保全
  • 「農場から食卓まで戦略」実施を通した、過剰栄養による汚染の削減
  • マイクロプラスチックと医薬品による特に有害な汚染の削減

【クリーンな大気】

  • 世界保健機関(WHO)のガイドラインに沿った大気質基準の見直し
  • 市民により清浄な大気をもたらすための地方自治体の取り組み支援産業
  • 大規模工業施設からの汚染の削減
  • 産業事故防止策の強化

【化学物質】

  • 公害ゼロを目指す新化学イノベーション戦略を通じた、危険
  • 化学物質からの市民の保護
  • 持続可能な代替品の一層の開発
  • より優れた健康保護と国際的競争力向上の両立
  • 市場に投入される物質の評価に関する規制改善



(記事の出所一覧)

http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/clean_energy.pdf

http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/sustainable_industry.pdf

http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/architecture.pdf

http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/mobility.pdf

http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/biological_diversity.pdf

http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/farmer_consumer.pdf

https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/12183-Farm-to-ForkStrategy

http://eumag.jp/wp-content/uploads/2020/02/no_waste.pdf

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/a4731e6fb00a9859/20190051_01.pdf



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