10兆円企業を10社育成。EU、環境・デジタル市場へ100兆円投入。
欧州コロナ復興基金の意義。
コロナからの経済復興の目的で、欧州委員会は2020年にコロナ復興基金の設立を発表した。その規模は7500億ユーロ(約100兆円)である。そして2021年6月15日、とうとうEUは資金調達のための債券の第一弾を発行した。その調達額は200億ユーロ(約2兆7000億円)である。
EUが調達まで漕ぎつけた意義は大きい。米S&PグローバルによるとEU復興基金は、EUの域内総生産(GDP)を今後5年間で1.5~4.1%押し上げると予測している。このように経済的な意味も確かにある。しかしそれだけではない。
EUは財政統合を長年目指し続けているが、足踏みをしてきた歴史がある。このEU全体での基金設立を難しくする原因は、財政が厳しい南欧諸国と、財政的に優等生であるオランダや北欧諸国との対立があるからだ。
この事情を配慮し、欧州委員会の予算担当であるハーン氏はコロナ復興基金に関し「今回限りの特別措置」だと強調した。しかし、それでもコロナ危機を契機に、EUが財政統合に向けて一歩踏み込めた意味は非常に大きい。
尚、米ムーディーズやフィッチ・レーティングスの格付けは最上級のトリプルA格であることからわかるように、EUの格付けは高く、資金調達自体は容易である。
(出所)欧州委員会プレスリリースコロナ復興基金100兆円の用途、「NextGenerationEU」戦略
コロナ復興基金7500億ユーロ(約100兆円)は、その37%をグリーン分野(環境ビジネス)、20%をデジタル分野へ割り振られる。
欧州委員会は、コロナ復興基金の目的を単なる景気回復(リカバリープラン)の計画でなく、欧州経済を変革させるための機会と捉えている。その戦略が「NextGenerationEU」である。(以下、URL参照)
(出所)欧州委員会「NextGenerationEU」戦略 (出所)欧州委員会プレスリリース2030年までに10兆円企業を10社育成
復興基金の用途からもわかるように、EUは環境とデジタル分野の強化を急いでいる。またGAFAをはじめとする巨大テクロノジー企業に市場を支配されている現状に危機感を感じており、EUはヨーロッパのスタートアップを育てることも重視している。
実際、フランスのマクロン大統領は「ヨーロッパ独自のテクノロジーチャンピオンがいなければ、欧州の主権はあり得ない」と断言し、「現在は欧州で3社しかない1000億ユーロ(10兆円)規模のテクノロジー企業を、2030年までに少なくとも10社にしたい。」との意思も表明した。さらに、そのために必要な要因は「①熟練労働者、②企業との協力、③投資、④ディープテック(研究主導のイノベーション)」の4つだとの見解を、フランスは示した。
欧州では、せっかく成長した欧州のスタートアップが、最終的にはアメリカの投資家・市場に移動してしまうことも課題にある。上記4つの要因に「投資」が含まれるのは、この課題を解決するためだと考える。
尚、このプレゼンテーションには、ドイツのデジタル化大臣であるドロテー・ベア氏(CSU)や、多数のヨーロッパのデジタル大臣が招待されていた。
来年、2022年初頭よりフランスがEU議長国となる。そのため、来年のEUでは、このようなテクノロジー企業の育成がEUの中心的なトピックになると予想する。
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