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ドイツで人権尊重の「サプライチェーン法」が制定。

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記事作成日: 2021年7月13日
記事更新日: 2021年2月16日

ドイツ国内で人権を尊重する「サプライチェーン法」について議論されていると2020年7月に本記事(「ドイツで人権尊重の「サプライチェーン法」が議論」)で紹介した。同法律に関し、サプライチェーン上の人権順守を調達元企業に義務づけることをドイツの3閣僚が2021年2月に合意したため更新する。同法律は2023年1月の施行を目指す。

サプライチェーン法とは?

サプライチェーン法とは、国内外のサプライヤーが人権や環境基準を確実に満たすために、調達元企業へ対策を講じることを義務づける法律である。
各企業のサプライチェーンに内包するESG上の問題を解決するため、導入が検討されている。
多くののグローバル企業と同じく、ドイツ企業も国外のビジネスパートナー(サプライヤー)が人権や環境基準に違反していることに対して、何度も批判されている。例えば、自動車会社がレアメタルを調達しているアフリカの鉱山で児童労働であったり、ファッション小売会社がアジアで低賃金での労働搾取であったりする。これは「ESG」の観点からみて、極めて重大な問題である。
(参考)ESGとは?ESGは株価を左右する要素にまで重要性を高めた。

サプライチェーン法制定のインパクト

もしサプライチェーン法が制定されれば、その経済的影響は大きい。約7,300社のドイツ企業が海外事業における人権の保護に注意を払わざるを得なくなり、国際競争で不利になる可能性がある。そのため、アルトマイヤー経済エネルギー大臣(CDU政党/日本の経産相と同立場)は、この法律制定に反対の立場をとっている。その一方で、ハイル労働大臣 (SPD党) 、ミュラー経済協力開発大臣 (CSU党) は、サプライチェーン法を制定すべきとの立場をとっており、法律制定の準備を進めている。

またドイツの大企業や業界団体の大半は、アルトマイヤー経済大臣と同じ立場で反対している一方、少数派であるが一部はこの法律に賛成する企業もある。

 

尚、国連では、2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択している。

この国連の原則を実施するために、2016年にドイツ政府は、

「国家行動計画(Nationalen Aktionsplan)」(NAP)を採用した。

その結果、2019年12月の第1回目調査結果では、回答企業400社のうち20%弱が、「途上国のサプライヤーが社会的および環境的基準を確実に満たすための措置を講じた」と回答していた。

(参考)Volvoはブロックチェーン技術により、サプライチェーンを監視。

サプライチェーン法制定で合意【追記】

企業の責任を強く求めるフベルトゥス・ハイル労相(社会民主党=SPD)、ゲルト・ミュラー開発支援相(キリスト教社会同盟=CSU)と、企業の過度な負担を懸念するペーター・アルトマイヤー経済相(キリスト教民主同盟=CDU)が折り合いをつけ、サプライチェーン法制定に合意した。
今回の合意では、調達元が責任を負うのは直接取引のあるサプライヤーの段階までとすることで折り合いがついた。ただ、直接取引のないサプライヤーであっても社会的基準が順守されていないとの指摘をNGOなどから受けた場合は調査を行い、必要であれば適切な措置を講じなければならない。同法案の適用対象については差し当たりドイツ国内の雇用が3,000人以上の企業に制限することで合意が成立した。約600社が該当する見通し。このハードルは施行後1年で1,000人に引き下げられるが、ハイル労相らが目指していた500人に比べると経済界の負担は小さい。2023年1月の施行を目指す。

独経済界アフリカ協会が懸念【追記】

ドイツのアルトマイヤー経済相は中堅以下の企業が対象外とされたことを強調した。それでも経済界の懸念はなお大きく、独経済界アフリカ協会のシュテファン・リービング会長は、ドイツ企業は対アフリカ投資を見合わせるようになると批判した。キール世界経済研究所(IfW)のガブリエル・フェルバーマイル所長は、アフリカ企業をドイツのサプライチェーンに組み込むことが難しくなると指摘した。アフリカ企業はドイツ企業との取引を減らし、中国やロシアなど人権を重視しない国の企業との取引を強化するようなるとの見方を示した。現地の労働条件も法案の狙いとは裏腹に悪化するとみている。

EUでもサプライチェーン法を検討【追記】

サプライチェーンにおける社会的基準順守の責任を調達元企業に負わせるルールの導入は欧州連合の欧州委員会も準備を進めており、今夏にも法案を提示する見通しである。メディア報道によると、欧州委は調達元にサプライチェーン全体の責任を負わせるなどドイツよりも厳しい規制を導入する方向だ。このためドイツは今回の合意内容を、EU法に基づき厳格化の方向で修正することになる可能性がある。

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