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企業価値/株価を高めたシーメンスの組織戦略の事例。

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シーメンスは組織戦略/体制を見直すことにより、株価を約40%向上させることに成功した。本記事では、このシーメンスの成功事例を紹介する。また成功まで繰り返した組織再編の過程から、シーメンスの強さの秘訣の一端を伝えたい。

シーメンスの課題

シーメンスはコングロマリット企業であり、様々な事業を有する。例えば電力やガス会社に対してタービンやシステムを提供するエネルギー事業、工場やビルのデジタル化を推進する事業、医療機器やサービスを提供する事業などである。各事業とも付加価値の高い魅力的な事業である。しかし、1つの企業が多様な事業を有することで、本来あるべき価値よりも企業価値(株価)が下がる、いわゆる「コングロマリットディスカウント」の状態に陥っていた。これがシーメンスが企業価値を高める上での組織の観点から見た課題であった。

組織再編により株価が低迷

2018年以降、シーメンスは組織再編を繰り返した。シーメンスは2018年10月から2019年4月にかけ、事業を6つに分け、それをオペレーティングカンパニー(3事業)とストラテジーカンパニー(3事業)に分類した組織体制を構築した。しかし結果的、それは企業価値を向上させるに至らなかった。
実際、この組織再編計画を発表した2018年8月当時に112ユーロあった株価は、翌年8月には89ユーロまで下がった。約25%もの大幅な落込みである。もしかすると、シーメンスはこの頃、企業価値を高めるために組織再編を実施したのではなかったのかもしれない。チャンドラー氏の名著「組織は戦略に従う」では「変化する環境に適応する戦略を策定し、その戦略を実行するために最適な組織にしていかねばならない」を意識した純粋に企業戦略(各事業の戦略)を推進させるための体制だったのだと考える。しかし、思いのほか、株価が下がったことに驚いたのではないだろうか。

組織再編の見直し

2019年にシーメンスは組織再編の見直しを発表した。シーメンスAG、シーメンスエナジーAG、シーメンスヘルシニアーズAGの、「シーメンスブランド3社を中心としたエコシステム構築」を組織戦略に掲げた。
本体であるシーメンスAGは収益性の高いデジタル事業へ。シーメンスヘルシニアーズは医療機器事業、シーメンスエナジーは再生可能エネルギーを中心としたエネルギーインフラ構築支援事業へ集中。このようにメイン事業を3社へ集約する体制とした。そして、この3社ともに株式市場へ上場させた。手始めにシーメンスヘルシニアーズを上場させた後、2020年9月にシーメンスエナジーも上場。これをもち、組織再編の第二弾が完了した。

組織再編の効果

シーメンスブランド3社体制への組織再編は功を奏した。コロナ禍にありながらも、2020年2月1日現在のシーメンスAGの株価は約130ユーロと過去最高値に迫る勢いである。2019年8月当時の株価と比較し、+46%の上昇である。シーメンスヘルシニアーズも2019年上場当時(約30ユーロ)と比較して現在は約46ユーロと、+44%の上場。さらにシーメンスエナジーも2020年上場当時(約22ユーロ)と比較して現在は約32ユーロと、+45%の上場。3ブランドともに+40%を超える大幅な企業価値(株価)の伸びを見せたことは非常に大きい。
一方でシーメンスのように、同じリーダー(社長)が、短期間に何度も柔軟に組織再編を繰り返すことは難しい。しかも今回の組織再編でシーメンスが本体から切り離したエネルギー事業(=シーメンスエナジー社)は、伝統的あるシーメンスの事業であった。これを実行できる所にも、シーメンスの強さの秘訣が見える。
ちなみに本業の方でも結果を出しており、組織再編が成功したことを想起させる。実際、2020年の利益は、3社ともに市場予想を上回った。

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